ガンナー100では横型97ccだったのに対し、ガンナー125は縦型の124㏄となりました
オーナーだからこそ体感できていることですが、ガンナー125のエンジンはかなりフィーリングがよいのです
キャブレターのセッティングがそれなりに合っていることが前提ですが
✅高回転までスムーズにきっちり回せる
✅変な成分の振動がない
✅モンキー125よりも6000rpmあたりからパワフル
・・・と、とにかく気持ちがいいエンジンなのです
粗悪な中華製エンジンだと思っていたけど・・・?
どうやら違うようですよ!
この記事でわかること
ガンナー125のエンジンの正体を知ることで、
今乗ってる人 → 安心して乗れるようになる
購入を迷っている人 → 後押しになる
なお、ガンナー125の第1便はすぐに完売したそうで、第2便は5月以降のデリバリーとなるようです
カタログスペックから読み解くガンナー125のエンジンの素性
下の表は、ガンナー125の公表されているカタログ値からエンジンに関わる部分だけを抜粋したものです
諸元 | ガンナー125 | 備考 |
---|---|---|
圧縮比 | 9.2 | 高いほど熱効率がよい(=燃費が良い) |
ボア径 | 56.5 | ピストンの大きさ |
ストローク量 | 49.5 | ピストンが往復運動する距離(片道) |
ボアストローク比 | 0.88 | ボア径>ストローク量でややショートストロークで高回転での出力重視 |
排気量 | 124 | 円周率×(ボア径/2)^2 ×ストローク量 |
燃料供給方式 | キャブレター | エンジン吸気負圧を利用して燃料を吸い上げて霧化する燃料供給装置 |
点火方式 | バッテリーCDI | バッテリー昇圧でコンデンサに蓄電して放電 |
最高出力(馬力) | N/A | トルク×回転数 |
最大トルク(N・m/rpm) | N/A | タイヤを回転させる力強さ、加速力のイメージ |
変速機 | 5速 | ギアが多いほど高効率をトレースしやすく、燃費が良い |
燃費(km/h) | N/A | 60km/hの定常走行。実使用に即したWMTCモードもある |
始動方式 | セル+キック | 共存するエンジンは極めて珍しい |
カタログ値からわかること
結論
・PHOENIX ENGINEERINGではエンジンは開発/製造できない
・'00年代以前の、古い設計の他社製エンジンを調達してきている
理由
①圧縮比が9.2で、今どきのバイクにしては低い
②燃料供給がキャブレター式+点火装置がフライホイールマグネットCDI
③最大出力、最大トルク、燃費が全てN/A(未公表)となっている
圧縮比が低いのは、キャブレター式+CDI点火の制約
①②は連動しており、燃費や排ガス規制を背景に、圧縮比は高くして熱効率向上(=燃費向上)させるのが原則です
圧縮比とは、ピストンが一番下にあるときの容積 と ピストンが一番上にあるときの容積 の比です
しかし、点火装置がフライホイールマグネットCDI方式では緻密な点火時期制御ができないので、圧縮比を高めすぎると低回転×高負荷運転(坂道とか、急加速とか)でノッキング燃焼が発生してエンジン破損するため、圧縮比を9程度にせざるを得ないのです
フライホイールマグネットCDI方式とは、磁石が仕込まれたフライホイール(クランクシャフトに取り付けられた"はずみ車")とコイルによって発電された電圧を、コンデンサーに蓄えこんで、点火するタイミングで一気に放電してスパークさせる装置
'00以降はバイクも燃料噴射系が電子制御化(HONDAはPGM-FI:Programmed Fuel Injection)されていくことになります
キャブレター式は、エンジンの吸気負圧で燃料を吸い上げて霧化させて吸入空気と混ぜて燃焼室に送り込む簡素なシステムですが、PGM-FIは、燃料タンク内の燃料ポンプで昇圧して、ECUで指示されたタイミングと量をインジェクタで噴射するので、システム原価UPと車両重量UPがデメリットです
燃焼噴射の電子制御化に合わせて、点火も電子制御化されて「フルトランジスタ点火」になっていきます
ここは必ずセットで、大排気量バイクは古くから対応してきましたが、50ccクラスへも'05年から対応していくことになります
以上の理由から、ガンナー125に搭載されているのは、'00以前の古い設計のエンジンというわけです
他社からエンジンを調達してくると最大出力、最大トルク、燃費は「N/A(未公表)」となる
まず知っておかねばならないのは、カタログに掲載される最大出力や最大トルクは車両としての数値ではなく、エンジン単体での数値であるということです
車両をシャシーダイナモで計測すると、駆動損失の内部抵抗があるのでカタログ値よりも必ず低く出ます
例えば、筆者の乗ってるTOYOTAのGR86はカタログ値では235PSですが、シャシダイ計測では200PSくらいです(´;ω;`)
なお、燃費は車両で計測します
完成品メーカーがエンジンを搭載する手段は3つ
① 自社で開発したエンジンを搭載する(HONDA, YAMAHA, Kawasaki等)
② 他社からOEM供給を受けたエンジンを搭載する(事例は多くない)
③ 他社のエンジンを調達して搭載する(Custom Builder系)
①自社で開発したエンジンを搭載する:
エンジン開発する技術力と資産があるということであり、製品の開発目標値を決めて設計通りになっているかを確認するために、出力や燃費を評価しながら開発します
そうすると当然、スペック表の数値を埋めることができます
高品質なエンジンは技術力のある限られたメーカーしか開発/製造できませんが、タイやその周辺国にはその技術力を保有するメーカーはありません
②他社からOEM供給を受けたエンジンを搭載する:
供給しているエンジンメーカーがスペックを持っているので、完成車のカタログスペック表の数値は埋めることができます
したがって、ガンナー125は③他社のエンジンを自己調達して搭載していることになります
粗悪な中華製ではなく、HONDA製の可能性が高い
ヤフオク!等で安価に流通してる中華製エンジンじゃないの?
・・・にしては違和感が多いのです
そもそも形状が全く異なることと、チェーンサイズが420なので仕様が異なります
また、PHOENIX ENGINEERINGがガンナーの開発/製造するにあたり、日本人のチューナーが携わっているということもあり、安易に中華製エンジンを採用することは考えにくいです
なお、縦型エンジンの中華製が横型ほど多くないです
中華製の縦型エンジンとして市場に流通している124ccエンジンはガンナー125のものとは明らかに異なる
ガンナー125の縦型エンジンは鋳肌や造形の質感が中華製のそれとは段違いに良い
タイでエンジンを比較的低コストで調達できて、カスタムの幅を持たせたいなら、エンジンはHONDA一択でしょう
タイではHONDAのシェアが70%を超えていることも背景にあります
・・・となると、該当する125ccクラスの縦型エンジンはかなり限定されてきます
国内での最新ラインアップではCB125RやCRF125がありますが、どちらも燃料噴射系が電子制御、点火はフルトランジスタ方式なので該当しません。CB125Rに至ってはシリンダーヘッドがDOHCです。
じゃ、一体何のエンジン・・・?
ガンナー125のエンジン仕様の違和感
ガンナー125のエンジンの外観とその数値を眺めると、違和感に気が付きます
諸元 | ガンナー125 | 備考 |
---|---|---|
圧縮比 | 9.2 | 高いほど熱効率がよい(=燃費が良い) |
ボア径 | 56.5 | ピストンの大きさ |
ストローク量 | 49.5 | ピストンが往復運動する距離(片道) |
ボアストローク比 | 0.88 | ボア径>ストローク量でややショートストロークで高回転での出力重視 |
排気量 | 124 | 円周率×(ボア径/2)^2 ×ストローク量 |
燃料供給方式 | キャブレター | エンジン吸気負圧を利用して燃料を吸い上げて霧化する燃料供給装置 |
点火方式 | バッテリーCDI | バッテリー昇圧でコンデンサに蓄電して放電 |
最高出力(馬力) | N/A | トルク×回転数 |
最大トルク(N・m/rpm) | N/A | タイヤを回転させる力強さ、加速力のイメージ |
変速機 | 5速 | ギアが多いほど高効率をトレースしやすく、燃費が良い |
燃費(km/h) | N/A | 60km/hの定常走行。実使用に即したWMTCモードもある |
始動方式 | セル+キック | 共存するエンジンは極めて珍しい |
違和感1:腰上(シリンダーヘッド+シリンダー)が排気量のわりに大きい
下の写真はエイプを124ccにボアアップカスタムしたエンジンです
124ccに特化すると、せいぜいこのサイズで済むのです(シリンダー細っ!)
・・・ということは、排気量のバリエーションが豊富にあるエンジンにおける最小排気量、ということになります
GB350やSR400よりも一回り小さいことを考えると、このサイズだと、250ccくらいまでは対応できるシリンダーヘッドということでしょうか
違和感2:SOHC 2弁の124ccなのに、チェーンサイズ428は太い
小排気量では摩擦損失の影響は大きく、ライバル車では概ね420を採用しています
DOHC等の高出力エンジンでは428を使うこともありますが、ガンナー125はそんなスポーツなバイクではないです
違和感3:クラッチカバーの「PHOENIX ENGINEERING」の刻印
ここには、PHOENIX ENGINEERINGのブランディングのこだわりを感じます
ただの完成車ビルドメーカーではなく、エンジンにも手を入れているゾ、という意味が込められています
そういう意味では、PHOENIX ENGINEERINGはバイクメーカーではなく、カスタムビルドメーカーという位置付けでしょう
なお、同じエンジンだけどクラッチカバーやジェネレータカバーだけをオリジナルに見せる、という例はあります
KTMの125DUKE(左)と、HusqvarnaのSVALTPILEN125(右)がその例です(どちらもインド生産)
台数にもよりますが、ダイキャストの型を変えるだけなので製造原価は変わらないです
エンジンは全く同じで、カバーのデザインだけが違いますね!
※意外と知られていない
ガンナー125のベースエンジンの正体
結論
✅ガンナー125のエンジンは、HONDAのXLR125Rに搭載されていたJD09Eがベース
✅PHOENIX ENGINEERINGは、JD09EエンジンをThai HONDAから補給部品として調達
✅ガンナー125の車両価格の割高感は、エンジンが占めるウェイトが大きい
※現時点の調査に基づいた推定であり、今後の分解調査等で精査していく
下の表を眺めると、HONDAのJD09Eエンジンとガンナー125のエンジン諸元は完全に一致していることは明らかです
何気に点火プラグが抵抗入りですらない、超格安のD8EAを使ってるのが気になりますが...(徹底的な原価低減)
また、外観もほぼ一致です
※製造年によって金型が変わるので少しずつ形状は異なる
前述の背景や考察において、PHOENIX ENGINEERNGは、JD09EをThai HONDAから補給部品として調達している可能性が高いです
・・・とすると、Monkey125、DAX125、GROM等のライバル車と比較するとパワフルなエンジンを積んでいることになります(環境性能はボロ負け)
確かに、高回転で回したときのパワーはMonkey125の試乗で感じたことがないキモチイイ感覚でした
諸元 | ガンナー125 | XLR125R | XLR200R | XLR250R XR250 | FTR223 XR230 CB223S |
---|---|---|---|---|---|
国内販売 | ''22.末~ | '93~'00 | '93~'97 | '87~'07 | '00~'16 |
エンジン型式 | GP125A | JD09E | MD29E | MD17E | MD33E |
圧縮比 | 9.2 | 9.2 | 9 | 9.,3 | 9 |
ボア径 | 56.5 | 56.5 | 63.5 | 73 | 65.5 |
ストローク量 | 49.5 | 49.5 | 62.2 | 59.5 | 66.2 |
ボアストローク比 | 0.88 | 0.88 | 0.98 | 0.82 | 1.01 |
排気量 | 124 | 124 | 196 | 249 | 233 |
点火プラグ | D8EA | DPR8EA-9 | DPR8EA-9 | DPR8EA-9 | DPR8EA-9 |
キャブレター | PZ26 (PD22) | PD52 (PD22) | PD3C (PD26) | PD79 | VE3DC |
ベンチュリ径 | φ20 | φ20 | φ22 | φ22 | φ22 |
最高出力 (kW[PS]/rpm) | N/A | 8.8[12] /9,000 | 13.2[18] /8,000 | [28] /8,500 | 12[16] /7,000 |
最大トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | N/A | 9.8[1] /7,000 | 16.7[1.7] /6,500 | [2.5] /7,500 | 18[1.8] /5,500 |
変速機 | 5速 | 5速 | 5速 | 5速 | 5速 |
定常燃費(km/h) | N/A | 35.5 | 35.5 | 43 | |
始動方式 | セル +キック | セル | セル | キック or セル | セル |
チェーンサイズ | 428 | 428 | 520 | 428 | 520 |
Rrタイヤサイズ | 120/70-12 | 4.10-18 | 4.10-18 | 4.60-18 | 120/90-18 |
XLR125Rは日本市場では'00まで生産をしており、それ以降でJD09Eを搭載したバイクは国内では販売していません
日本国内に限定すれば、補給部品として少なくとも2007年までは製造する義務があるわけですが、2007の製造終了のときにどれだけの作り溜めを計画していたか、あるいはアジア圏の他の車種への搭載ニーズでThai HONDAが製造し続けているか、です
ガンナー125がレトロなスペックで安価な部品を採用しているわりに車両価格が高めに設定されているのは、エンジンを卸値ではなく、補給部品として買って、オリジナルカスタムしているからでしょう
※一般的に補給部品は原価の7~10倍程度
ガンナーの原価構成比率はエンジン調達費とフレーム開発費がほぼ全てを占有しているとみてよいです
夏頃にエンジン分解して詳細分析していきます
PHOENIX ENGINEERINGによるエンジンカスタムのこだわり
JD09Eとガンナー125のエンジンの外観と諸元数値を比較すると、腰上はほぼ一致するとして、気になることが2つあります
✅XLR125RのエンジンJD09Eはセルモーター仕様で、キックペダル仕様はない
✅クラッチカバーとジェネレータカバーの形状が違う
結論
✅セル始動のJD09Eエンジンをベースとして、キック始動のMD17Eエンジンのキックギアを組み込んでいる
✅ブランド名を刻印したオリジナルクラッチカバー/ジェネレータカバーを製作
※そのせいか、キックペダルがクラッチカバーに干渉して削れるという不具合があります ↓
設計しないとこうなっちゃいます・・・
キックギア組み込みとオリジナルクラッチ/ジェネカバー
私も経験がありますが、MAGNA FIFTY(セル始動)をボアアップした際、バッテリー容量が貧弱かつセルモーターの力不足でセルが回らず始動できなくなることがあります
なので、キック始動のJAZZ用のキックギアをMAGNA FIFTYのクランクケースに組み込んでました
4miniでボアアップする場合の常套カスタムです
垣間見えるPHOENIX ENGINEERINGの開発姿勢
ガンナー125のエンジンが、そんな面倒な仕様になっている理由は、PHOENIX ENGNIEERINGの製品開発方針にあるとみています
ガンナーシリーズは「日本市場の声を反映しながら製品開発する意欲がある」とmoto shop CHRONICLE内の公式ページで謳っています
4miniカスタムユーザーは軽量化の為にバッテリーレス化したり、ボアアップが常に頭の中にあるので、「キックペダル始動」は必須機能です。
ガンナーシリーズ開発の背景には日本人チューナー(月木レーシングさん)が関わっていることも、背景にありそうです。
まとめ
ガンナー125のエンジンの正体
✅2000年に国内生産終了したHONDA XLR125RのエンジンJD09Eがベース
✅キックギアを組み込み、クラッチ/ジェネレータカバーをオリジナル製作して組み込んだカスタム仕様
✅JD09Eエンジンは補給部品として調達し、それが車両原価を押し上げている
ただし、JD09Eを完コピした、という可能性もないわけじゃありません
分解して構成部品をひとつひとつ確認しないと断定までは辿り着けないと思っています
そもそも・・・
✅なぜ、Monkey125の横型エンジンを流用しなかったのか?(タイ生産なのに)
✅設計が古い縦型エンジンを選定した理由は何か?
✅選定するにしてもCRF125のエンジンを選定しなかった理由は?
キャブレター方式にこだわった理由は一体何なのか?
電子制御が多いと周辺部品も増え、専用のワイヤーハーネスの作製や、コンピュータ調整もあって構成が複雑になります
彼らにそこまでの専門的な技術力がないだけなのか、あるいは製造原価が跳ね上がるからなのか?
まずは分解調査を進めたり、タイ現地で工程調査したり、開発関係者にお話しを伺っていきたいですね
仕事でタイに行く出張があればいいんだけど・・・
では、また!